AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ (2020年12月)
2020年12月5日(土)15:00~17:30、オンラインにてAJEQの定例研究会が開催されました。今回は以下の2件の発表がありました。多くのAJEQ会員、非会員の参加を得られ、充実した研究会となりました。
詳細はご本人たちからの下記の報告をごらんください。(小倉和子・立教大学)
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1.村石麻子会員 MURAISHI Asako
「レジャン・デュシャルムーフランスとアメリカの狭間で」
(Réjean
Ducharme entre la France et les Etats-Unis)
2.伊達聖伸会員 DATE Kiyonobu
「チャールズ・テイラーの宗教論とライシテ:静かな革命以降のケベックの文脈に注目して」
(Religion et laïcité chez Charles Taylor en
contexte québécois depuis la Révolution tranquille)
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1.村石麻子会員の報告
本発表は、作家レジャン・デュシャルムによるケベック性のアイデンティティ探求を小説 Le Nez qui voque (1967) から読み解いた。静かな革命を境にしたフランス性からアメリカ性へのモデルシフトを提示した上で、デュシャルムはいずれにも与しないことを示した。フランスの植民地支配の歴史、国民性、宗教、言語、文学を皮肉る一方、米国の資本主義、消費社会、物質文化も批判しており、急激な価値観の変化に翻弄される人々の聞き届けられなかった声を掬い取ることを文学の本領とした。そこに伝統の解体を進めながらも過去の喪失を憂える矛盾を抱え、言葉遊びとユーモア精神により革新にも反動にもいかなるイデオロギーにも追従しない反骨の作家像が浮かび上がってくる。作家の主要テーマ「大人になること」とは、過激化する政治的独立運動とは異なる仕方で、フランス、英語圏カナダ、アメリカという「親」からの精神的自立を図り、Québécois として矜持を持つことではなかったか。
会場からは多くのご意見・ご質問を頂いて気付きがあった。静かな革命の équivoque = ambivalent 両義性、異端としてのデュシャルムの特異なスタンス、Francité と Américanité の問いと静かな革命の文脈をどう併せ論じるか、また日本の作家との比較にも再考が必要で、今後の課題としたい。
2.伊達聖伸会員の報告
チャールズ・テイラーにはいくつかの顔がある。多文化主義の理論家、ポスト世俗化の論者の一人、ブシャール=テイラー委員会の共同委員長など。日本のテイラー研究は、多くの邦訳書の刊行にも現われているように、活況を呈しており高水準だが、ケベックの文脈がきちんと踏まえられているとは言いがたい面もある。本発表では、1960年代の『ダウンサイド・レビュー』に掲載された「教権主義」と『シテ・リーブル』に掲載された「国家とライシテ」を分析し、当時のテイラーがカトリック左派の立場から、アングロサクソン系の手続き主義的なリベラリズムとフランス第三共和政に見られたようなライシテの双方を斥けていることを明らかにした。なお、本発表の内容の特に後半部分の詳細は、拙稿「ポスト世俗化の哲学」『世界哲学史』別巻(ちくま新書)に記しているので、そちらもご覧いただければ幸いである。
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