AJEQ/JACS研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ/JACS (2021年3月)
AJEQ/JACS研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ/JACS (2021年3月)
AJEQ企画委員会・研究会担当 Comité scientifique
2021年3月28日(日)16:00~19:00、AJEQ/JACS共催の研究会がオンラインで開催されました。
以下、報告者たちによる報告要旨です。(矢頭典枝・神田外語大学)
〈第一報告〉
「オンタリオ・フランコフォンの歴史とアイデンティティ」
L'histoire et l'identité des francophones de
l'Ontario
小松祐子(お茶の水女子大学、AJEQ会員)
オンタリオ州フランコフォンの起源は、サミュエル・ド・シャンプランがこの地に滞在した1615年にさかのぼり、2015年には「オンタリオにおけるフランス語400周年」が祝われた。しかし、今日約62万人(州政府統計)に上る同州フランコフォンは、州人口の5%に満たないマイノリティ集団であり、その可視性(visibilité)が課題とされている。本発表では、(とりわけ日本で)ほとんど知られることのない彼らの歴史を辿り、その集団の記憶に刻まれたいくつかの歴史的事件や危機を通して、彼らの集団としてのアイデンティティがいかに変遷してきたかを明らかにした。仏系カナダから仏系オンタリオを経て、今日ではオンタリオ・フランコフォニーと自己規定する彼らが、民族文化的多様性の包摂を目指し、未来を志向する開かれた集団となっていることを示した。
なお本発表は、以下の既発表論文に基づくものである。小松祐子(2021)「オンタリオ州フランコフォン集団アイデンティティの史的変遷」『仏語圏言語文化』(お茶の水女子大学)第1号, 69-88頁.(2021年4月中旬以降、お茶の水女子大学教育・研究成果コレクションhttps://teapot.lib.ocha.ac.jp/に公開予定)
〈第二報告〉
「ケベック州における仏英バイリンガルの分布―国勢調査の分析からー」
English-French
bilingual distribution in Quebec: An analysis of census data
時田朋子(実践女子大学、JACS会員)
ケベック州は、フランス語を母語とするフランコフォンが多数を占め、州の公用語をフランス語のみと定める。しかし、2016年のカナダ国勢調査によると、フランス語と英語から成る二公用語知識率は44.5%であった。そこで、本発表は、仏英バイリンガルがどのように分布しているかについて、国勢調査における言語知識率の結果を分析し、まず比率の変遷を、次に人々の属性、具体的には年齢、性別、母語の側面から示した。フランス語知識率については、比率は常に高く、年齢と性別による差異は見出せなかった。母語については差異があるものの、どのグループも比率は上昇している。この結果は、州政府主導のフランス語化による影響と考えられる。英語知識率については、比率は時代とともに上昇し、年齢、性別、母語による差異が見られた。その主要因として、英語がグローバル社会の共通語であることを指摘した。
〈第三報告〉
「フランス語憲章によるケベック社会の言語シフトの実態:2012~2020年を中心に」
The Charter of the
French Language and Language Shift in Quebec (2012-2020)
矢頭典枝 (神田外語大学、AJEQ/JACS会員)
本報告では、矢頭(2013)「ケベック・フランス語憲章の社会言語学的分析─言語計画論と言語選択の観点から─」(『ケベック研究』第5号、日本ケベック学会 http://www.ajeqsite.org/doc_gakkaishi/ajeq_rjeq5.pdf)で指摘したことがその後どうなったか、という点について最近の資料やメディア報道を使って示した。まず、社会言語学の「言語シフトとその逆行」という理論を先行研究に触れながら解説し、制定から40年以上を経たケベックの言語政策は安定期に入るも「永遠に油断しない」姿勢を見せていると論じ、フランス語の状況を危惧する世論調査結果を示した。矢頭(2013)のなかで、フランス語化が定着した現在のケベックの言語状況をよく観察すると油断すれば英語が侵入してくると指摘したが、この状況が2012年以降、教育言語、商業(特にサイン表示言語)、企業のフランス語化においてさらに顕著にみられ、言語政策にも反映される状況が観察されると指摘した。
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