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2021

AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ (2021年7月)

CATEGORY報告
AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ (2021年7月)
AJEQ企画委員会・研究会担当 Comité scientifique
 
2021年7月10日(土)16:00~18:00、オンラインにてAJEQの定例研究会が開催されました。
以下、報告者たちによる報告要旨です。(小倉和子・立教大学)
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1. 河野美奈子会員 KONO Minako
「イヌー文学における « guérison » について:ナオミ・フォンテーヌの『クエシパン』再読」
  Sur la « guérison » dans la littérature innue : relire Kuessipan de Naomi Fontaine
 
 本発表は、ケベック州の先住民イヌーの文学における共通したテーマの一つである«guérison»「治癒」に着目し、作品における «guérison» の多義性について考察した。«guérison» はまず、傷を治すという意味から呪術医と関係する。彼は自然から学んだ知識で傷を治すとともに、シャーマン的な役割も担っている。しかし近代以降 «guérison» は別の意味を孕んでいる。それは同化政策による寄宿学校のトラウマやそれにともなう祖先との記憶の断絶からの回復である。発表ではナオミ・フォンテーヌの『クエシパン』のなかで現代の先住民が抱える問題から回復するために北方の土地を見出すこと、そして『クエシパン』の断片的エクリチュールによりその回復のプロセスに読者を巻き込んでいることを示した。

AJEQ研究会2021,7,10ブログ1

2. 小倉和子会員 OGURA Kazuko
「森と記憶:ジョスリーヌ・ソシエの『鳥たちの雨』読解」
  Forêt et mémoire : une lecture de Il pleuvait des oiseaux de Jocelyne Saucier

 ジョスリーヌ・ソシエが2011年に発表した『鳥たちの雨』はケベック州西部のアビティビ地方からオンタリオ州にまたがる広大な森林地帯を舞台とし、20世紀初頭に発生した森林大火災に取材した小説である。ケベック文学として初めてフランコフォニー五大陸賞を受賞した。2019年にケベックで映画化され、本年5月には『やすらぎの森』というタイトルで日本でも公開されたので、この機会に原作を読解した。
 開拓時代から現代に至るまで、森はフランス系住民にとってさまざまな「記憶」に彩られた空間である。森林大火災からの生き残りで、森で絵を描いて晩年を過ごしたテッドの心の闇に迫るようにして展開される本小説には、多くの二重性のモチーフが隠されているが、森もまた例外ではない。二重性・両義性を表象する森が、登場人物たちにとってはとりわけ「自由」と「再生」の契機となる場所として提示されていることを明らかにした。
 *なお、映画『やすらぎの森』は、現在以下の映画館でごらんいただけます。

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引き続き、オンライン懇親会

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Tag:ケベックAJEQ映画