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AJEQ(Association Japonaise des Études Québécoises)blog

29
2017

4月8日AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ (4/29)

CATEGORY報告
 
2017年4月8日(土)、早稲田大学にてAJEQの定例研究会が開催されました。
第1発表では、近藤野里会員が、ケベックのフランス語の言語学的特徴について、音韻、語彙、統語、規範の側面から、言語研究者以外にも理解できるように発表しました。
第2発表では、瀬藤澄彦会員が、近著『フランスはなぜショックに強いか? ~持続可能なハイブリッド国家』の内容について発表し、活発な議論が展開されました。
詳細は、以下、ご本人からの報告をごらんください。(矢頭典枝・神田外語大学)

日時:2017年4月8日(土)16:00~18:00
場所:早稲田大学 8号館2階219教室
〈プログラム〉
 第1発表:近藤野里会員(名古屋外国語大学)
「ケベック・フランス語の言語学的特徴について」
第2発表:瀬藤澄彦会員(帝京大学)
「フランスはなぜショックに強いか? ~持続可能なハイブリッド国家」

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近藤野里会員の発表についての報告
「ケベック・フランス語の言語学的特徴について」

 本発表では、ケベック・フランス語における代表的な言語特徴を、音声的、そして統語的側面から概観し、またケベック・フランス語の言語規範の問題に関しても考察を行った。カナダのフランス語はヨーロッパで話されるフランス語とは異なる特徴を持つことは明らかである。ただし、ケベックのフランス語がフランスで話されるフランス語と歴史的につながっていて、枝分かれするように両方のフランス語が徐々に変化していったわけである。そのため、カナダへの入植が始まった17世紀以降のフランスのフランス語の変化と現在のケベックのフランス語の特徴を照らし合わせることも重要である。
 音声的特徴については、長母音(または二重母音)(ex. côte [kowt], pâte [pɒwt])、狭母音の弛緩化(ex. tuque /tyk/ > [tʏk])、歯茎音の破擦化 (ex. petit [ptsi])、[a]の後舌化([ɒ], [ɔ])、/l/および語末子音の脱落(ex. sur la table [sa:tæb])などが挙げられる。統語的特徴については、特に疑問文における形態素-tu(/-ti)の付加(ex. « Vous en voulez-tu ? »)、疑問代名詞と関係代名詞に後続する従位接続詞que (ex. Quand que tu viens ? = Quand viens-tu ?)などが挙げられる。
 ケベックでは様々な言語政策が行われており、フランス語を保護していく姿勢は著しいものである。しかし、ケベックで話されるフランス語に特有の規範が存在するのか、もしくはその規範とは「国際的な標準フランス語」であるのか、という問いに明白な答えは用意されていないように思える。本発表では、この疑問に対してラジオ・カナダの番組においてケベックの知識人が発話においてどのような特徴を示すのかという点を分析した2つの研究(Bigot, 2011; Bigot & Papen, 2013)で明らかになったことを紹介した。これらの研究では、ケベックのフランス語の代表的な特徴の全てが一様の頻度で反映されるわけではないにしても、フォーマルなレジスターにおいて安定的に表れる特徴があることは明らかであった。ケベック・フランス語の規範は必ずしも成文化されることによって設定されているわけではないが、話者の言語認識の中に何らかの規範の形が存在することが考えられる。(近藤野里)
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 近藤野里会員

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 瀬藤澄彦会員の発表についての報告
「フランスはなぜショックに強いか? ~持続可能なハイブリッド国家」

 フランス経済の耐久力、ばねのある内需主導型モデルこそ私たちはもっと知る必要がある。成長神話から一歩、身を引き、博愛と自立に支えられた持続可能な社会構築をめざすフランスモデルとは何か。フランス経済をマクロの総需要管理システムとミクロの供給面の両サイドから長期トレンドで見ていくと全く別の姿が見えてくる。その衰退論が間違いであり、持続可能で高度なハイブリッド国家システムが浮かび上がってくる。
 フランスがユーロ経済圏のなかでもっとも経済成長の山と谷の変動が少ないことは、リーマン・ショック後の一人あたりの国民所得の伸びを見れば証明される。コーポラティズムも社会の連帯結束力を表すもので、職域別に張り巡らされた全国・州・県にまたがったネットワークが存在する。失業、医療、年金、労働災害、母性保護、家族手当を中心とした職業別の手厚い福利厚生が網の目のように張り巡らされている。公共財政面では景気自動調整機能を持つ財政システム、失業手当給付の所得安定機能、独立した社会保障特別会計などが注目される。内需主導型の主役は個人消費と政府消費である。そのフランスの恒常的な輸入需要によって欧州各国の輸出水準が維持された。これがユーロ危機を救済した。対新興国輸出に依存するドイツ経済が低い出生率によって人口減少するのとは対照的に高い出生率にあるフランスの経済規模は2040年代にはドイツを人口でもGDPでも凌駕する。ドイツのようにGDPの40%以上にも達する外需主導型の経済は海外の輸入需要に従属する不安定な成長モデルである。他方で、内需主導型モデルは国内需要に支えられ、外国に従属しない自立した経済である。
 フランス型モデルは世界一の国民負担率を背景に、①ショック・アブソーバーに相当する景気自動安定装置が幅広く張り巡らされていること、②民間部門の債務水準が低い水準であること、③金融資産や不動産資産のポートフォリオが健全であり、④雇用保護重視の労働政策が雇用者の所得変動を最小限に止めている。フランスのシステムは複雑ではあるがハイブリッドであり、高度な現代資本主義の市場の失敗と階層社会の矛盾や格差に対応しようとしているように見える。そのフランスが「フレキシキュリティー」、労働市場の柔軟化という画期的改革に乗り出し、積極的労働市場政策、求職求人制度一元化、シニアと女性の雇用促進、労働時間の短縮、労働市場の柔軟化など進められようとしている。
 フランスの出生率の高さの要因は、第一に子供・家族手当といった公的な支援策の高さ、第二に「3歳児神話」の桎梏からいち早く解放された意識革命、第三にそれを社会的に支えるヌヌ(nounou)と呼ばれる民間乳母ベビーシッター制度から始まる託児サービス業や現物給付の普及、第四に社会全体が男女共生を前提に子供を育んでいこうとする「国民的暗黙知」とも言うべきものの存在などである。
 経済成長は短期には総需要の水準に左右されるが、先進国では内需が総需要の帰趨に影響を与える。フランスにおいては、その内需のなかで最大項目である個人消費と安定した出生率の高さが消費性向に繋がっている。農産物の貿易収支の一貫した大幅な黒字が経常収支の赤字水準拡大に歯止めをかけている。外的なショックにマクロ経済面で耐性力を与える役割を果たしている。銀行業務と投資業務の分離の面ではむしろ危機に際してその総合金融機関としてフランス型のユニバーサル・バンキングこそが見直されたのではないか。
 かつて「砂漠」と揶揄されたような近代化に遅れた地方都市のイメージはない。そこでは都市連合体という広域行政が都市化の実態に合わせて進められている。地域経済の成長は中核拠点都市、メトロポールの発展に顕著に現われていることが耐久力にも貢献している。
 官僚主義的合理的なリーダーが中心の産業エリート階層が、グローバル化の影響のなかで新世代の産業エリート群像に分化されようとしている。①脱官僚派グループも含めた民間実業人グループ等の有力大企業のグローバル・ビジネス・リーダー、②ニュー・ビジネス・サービスのニッチな分野で野心的経営戦略によって急成長するキャピタル・ベンンチャー型の中堅企業経営者グループ、③伝統的な家族資本系列グループの若き相続経営者グループ、④女性経営幹部グループ、⑤急速に脚光を浴び始めた外国人経営者グループである。
 2つの画期的な雇用の保証と柔軟性をうたった画期的な労働改革も実現。サルコジ政権時のフィヨン首相の支援策を大幅に上回る「供給ショック」とまで形容される企業の競争力支援も実行。これにマクロン経済相の構造改革計画も加わった。2014年を境に2016年にはついに失業率の下降、成長率の回復、消費者心理の改善、など政権前半の経済政策の成果が出始めたと評価される。社会民主主義路線を守りながら大胆すぎると社会党内でも懸念された改革は改めてフランス経済の耐性力をみせた。
 子供・女性・高齢者の生きがい追求、グルネル協定とCOP21を通じて環境大国を目指すモデルである。このような持続可能な経済社会を支えているのは博愛と自立の精神である。限られた人生の時間のなかで、経済発展の目標は人々が長い寿命を生きてそのなかで健康的で創造的な生活を享受できることである。現代フランスにあっては、子供、女性、高齢者が幸せになっていかない限り、労働力人口の男性のみが優遇されるような状況が修正されていかない限り本当のフランス型福祉国家の社会は到来しないと認識されている。私たちはGDP(国民総生産)というイデオロギー神話のなかで暮らしている。それはほとんど無意識にまるで空気のようでさえある。哲学者やエコノミストを中心に、人間重視の福祉の概念を持続可能な経済政策の目標に組むことで、盲目的で自己破壊的な経済成長の罠からを脱出しようという考えが段々と強くなっている。OECDの調査した国際比較でもフランスの福祉の水準はもっとも高い位置にあり、所得格差はジニ係数で見る限り平均値だが、環境、社会的な紐帯関係、医療、職業と私生活の両立、などの面では高い水準にある。
 フランスは21世紀に入り急速に環境大国に変貌。2005年に憲法に環境憲章を盛り込み、前文も修正して環境の権利を人権や社会経済権(労働の権利)と同じ水準に位置付けた。(瀬藤澄彦)

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瀬藤澄彦会員
(研究会の撮影:小倉和子・矢頭典枝)

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