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2017

2017年7月15日 AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ

CATEGORY報告

2017年7月15日 AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ

AJEQ企画委員会・研究会担当

   2017年7月15日(土)、青山学院大学にてAJEQの定例研究会が開催されました。

 最初に、ケベック州政府在日事務所研修生のエティエンヌ・ダルヴォ氏から、2020年東京オリンピックに向けて在日事務所と日本フランコフォニー推進評議会が進めている間文化プロジェクトについての報告と質疑応答がありました。

次に、松沼美穂会員が、昨年度、小畑ケベック研究奨励賞を受賞したプロジェクトに基づく現地調査の結果を踏まえて、「第一次世界大戦100周年を通して見たケベックの歴史的アイデンティティの表象と認識」ついて発表し、活発な議論が展開されました。

最後に、立花英裕会員と真田桂子会員から、10月の大会の基調講演とシンポジウムの準備を兼ねた共同発表がありました。まず真田会員から、招聘予定のピエール・ヌヴー氏について、業績の紹介があり、その後、立花会員より、ヌヴーの大著『ガストン・ミロン』を手掛かりにして、ミロンを中心とした「静かな革命」期のケベック詩に関する発表があり、とても充実した研究会でした。

詳細は、以下、ご本人たちからの報告をごらんください。(小倉和子・立教大学)

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日時:2017年7月15日(土)15:30~18:00
場所:青山学院大学 17号館3階17305教室
〈プログラム〉

1. Etienne DARVEAU (Délégation général du Québec à Tokyo)

 エティエンヌ・ダルヴォ(ケベック州政府在日事務所)

« Projet interculturel en vue des JO de Tokyo 2020 »

(2020年東京オリンピックに向けた間文化プロジェクト)

2. 松沼美穂会員(群馬大学)Miho MATSUNUMA (Université de Gumma)

「第一次世界大戦100周年を通して見たケベックの歴史的アイデンティティの表象と認識」

(La représentation et la perception de l’identité historique du Québec vues à travers la commémoration centenaire de la Première guerre mondiale)

3. 立花英裕会員(早稲田大学)/真田圭子会員(阪南大学)(共同発表)

 Hidehiro TACHIBANA (Université Waseda) / Keiko SANADA (Université Hannan)

「ケベック文学とピエール・ヌヴ―」(La littérature québécoise et Pierre Nepveu)

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Etienne DARVEAU (Délégation générale du Québec à Tokyo)

 « Projet de formation interculturelle en prévision des Jeux olympiques et paralympiques de Tokyo en 2020 »

L’annonce de l’obtention des Jeux olympiques par la Ville de Tokyo en 2020 a eu un effet tonifiant auprès de ceux qui souhaitent faire connaître la Francophonie au Japon. Ce sont ainsi 79 États francophones qui seront représentés aux Jeux olympiques de Tokyo en 2020, plus d’un millier d’athlètes francophones qui participeront aux compétitions et des centaines de milliers de touristes francophones qui visiteront le Japon au cours de cette période.

Le Conseil pour la promotion de la Francophonie au Japon développe actuellement un projet de formation interculturelle des Japonais et Japonaises de diverses organisations publiques et privées en prévision des Jeux olympiques de Tokyo en 2020. Le projet se divise en 3 volets complémentaires, sur une période allant de septembre 2017 à la fin des JO Tokyo 2020 : 1) formation interculturelle, 2) programmation culturelle et 3) stratégie de communication.

Le fait de mieux saisir l’ampleur de la diversité de cultures francophones qui sera représentée sur le sol japonais permettra de favoriser l’accueil des visiteurs et des athlètes, ainsi que d’éviter les incompréhensions et les malaises culturels. Plus encore, cela rehaussera l’expérience culturelle des bénévoles et employés japonais en contact avec les visiteurs francophiles et donnera une valeur ajoutée à la qualité du service.

Cette communication vise ainsi à présenter la nature du projet, ses objectifs, et à promouvoir sa réalisation à travers la création de nouveaux partenariats dans le domaine académique.


松沼美穂(群馬大学)

「第一次世界大戦100周年を通して見たケベックの歴史的アイデンティティの表象と認識」

ケベックにおける第一次世界大戦に関する認識としてながらく支配的だったのは、帝国主義者であるイギリス人に押し付けられた、自分たちとは無関係な戦争だという見方であり、そのなかで、連邦が導入した徴兵制に対する反対暴動が、ケベックの大戦経験を象徴する意味をもってきた。ナショナリズムが高揚した1990年代には、主権主義者が「われわれの戦死者」への関心と敬意を表明すると同時に、軍事史の学術研究が進展した。

こうした文脈を前提とした大戦 100 周年をめぐる動きを観察するために、記念行事の実行に携わるあるいはそれらについて論評する歴史家、歴史教育者、メディア関係者、博物館学芸員、政策担当者などへの聞き取り調査を2017年2月に行った。

 2014年には大戦にたいするメディアの関心が高まった(報告で言及したラジオ・カナダの番組 « 14-18 Grande Guerre des Canadiens français »は以下。http://ici.radio-canada.ca/premiere/premiereplus/histoire/112350/14-18nbsp-la-grande-guerre-des-canadiens)。

 個人文書の発掘にもとづく出征兵士の手記の出版も増えており、ケベック・ナショナリズムを代表するSociété de Saint Jean-Baptisteは自由や民主主義といった普遍的な価値のために命をささげた「われわれの死者」を顕彰している。徴兵拒否に収れんしない戦争経験を「われわれの先達」のものとして共有しようとする関心は確かにあるが、それと100周年との因果関係、「われわれの戦死者」をケベックに取り戻そうとする人々の連邦軍機構に対する態度、集合的記憶とときの政治状況との関連などについて、さらに検討する必要性があることが明らかになった。


立花英裕会員(早稲田大学)/真田桂子会員(阪南大学)

「ケベック文学とピエール・ヌヴー」

〈批評家ピエール・ヌヴー〉

 今秋、日本ケベック学会年次大会のゲストスピーカーとして来日するピエール・ヌヴー・モントリオール大学名誉教授(1946-)は、詩人、批評家として活躍し、ケベック文学の発展に大きく寄与してきた。真田は主に、L’Écologie du réel : Mort et naissance de la littérature Québécoise contemporaine (1988)から、Montréal imaginaire (1992)、 Intérieurs du Nouveau Monde : Essais sur les littératures du Québec et des Amériques (1998) に至る業績に即して、批評家としてのヌヴーの仕事について検証した。ヌヴーは、A. Hébert, S-D. Garneau, A. Grandboisらの黎明期ケベック文学の作家から、G. MironやJ. Braultをはじめとする、ケベック社会に大きな変動をもたらした1960年代の「静かな革命」世代の作家たちの仕事を受け継ぎ、1980年代に多元化が一気に進展しL’écriture migrante(移動文学)の作家たちが活躍した変容するケベック文学に至るまで鋭い批評を展開してきた。とりわけIntérieurs du Nouveau Monde (1998、カナダ総督文学賞受賞)において、モントリオールのユダヤ系をはじめとする英語圏の作家たちにも注目し、英語系と仏語系とが支配者と被支配者との関係性にあるだけでなく、互いに相補い合う関係にあった深層を浮き彫りにするとともに、ケベック文学の独自性の一つである「アメリカ性」とは、従来の広大な大陸における開拓性に依拠するイメージにではなく、むしろもっと内面的な経験に立脚し、例えば、詩人たちが原初的な言葉を紡ぎ出そうとするそのひっ迫した創造性にこそ、ケベック文学が孕むアメリカ性の隠された重要性があると主張した。このように、ヌヴーは時代と空間をまたぎ、ケベック文学を刷新し、広く世界に向かってその価値を発信した作家であると言えるだろう。(真田)

〈ピエール・ヌヴーの評伝『ガストン・ミロン、1人の男の人生』をめぐって〉

真田桂子氏との共同発表の枠の中で立花は、評伝『ガストン・ミロン、 1人の男の人生』を通してピエール・ヌヴーの批評家としての、また詩人としての特質に触れた後、そこを出発点としてガストン・ミロンの詩人としての活動と、彼が設立したエグザゴーヌ社について紹介した。

ピエール・ヌヴーの詩句に、「私はドアを開く/すると海が聞える/モンレアルの街の」というのがある。この短い詩は、卓上の照明に目が潰れるまでテキストに取り組む「私」がまず語られるのだが、そこから見えてくるのは、ヌヴーにとって文学が、とことんテキストを突き詰めた先に現象する「確実さ」や「意味作用」の崩壊から始まることである。既成の認識の枠組みが崩れた後に「世界」が総体として出現するのであり、文学の限界にまで追い詰められた詩人の耳に世界の騒音としての「海」が聞えてくるのである。

ヌヴーの大部なミロン論もそのような「海」の性格をもっている。この評伝において、彼は、膨大な資料を駆使して、ミロンが独自の詩的言語を見いだすまでの実に長い過程を実生活と言語的探求の両面から克明に追っている。ミロンの生活をほとんど日毎に追っていくような微細な記述により、ヌヴーは詩人を総体として捉えようとしているが、そのことによって、「詩人」としての、あるいは「静かな革命」期の精神的指導者としてのミロンを越えた一人の人間の「海」が聞えてくるのである。

発表の後半では、ミロンが詩人の仲間と共に設立したエグザゴーヌ社が詩の出版社として果たした社会的役割の一端を紹介することによって、文学研究がテキストの内在的分析だけでなく、社会的空間を形成していく文学的言説を社会科学的に研究することの必要性に言及した。(立花)


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(photos:Sayaka Nakazawa, Kazuko Ogura)

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