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2019

2018年12月9日AJEQ/JACS共同研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ et JACS

CATEGORY報告
2018年12月9日AJEQ/JACS共同研究会報告
Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ et JACS
AJEQ企画委員会・研究会担当

2018年12月9日(日)、早稲田大学にて日本ケベック学会(AJEQ)/日本カナダ学会(JACS)合同研究会を行いました。
第一発表では、2018年度小畑ケベック研究奨励賞受賞者の一人である鈴木智子会員が、ケベック州での現地調査の結果を踏まえ、ケベック州の児童書についての報告しました。第二発表では、2018年に日本カナダ学会会長に就任した佐藤信行(中央大学)教授がインターネット上の表現の規制について最近の事例を取り上げて報告しました。

JACSとの共催は初めての試みで、両学会から会員が集まり、有意義な研究会でした。詳細は以下、ご本人たちからの報告をごらんください。(矢頭典枝・神田外語大学)

〇第一報告
鈴木智子会員による「ケベック児童書に関する現地調査及び国際子ども図書館に所蔵すべきブックリストの作成」
La littérature pour la jeunesse au Québec et une liste de 300 livres
 今回は国際子ども図書館からご依頼をいただいたケベックの児童書に関する調査についての詳細と、この調査を行うために小畑ケベック研究奨励賞をいただき、2018年10月に行ったケベック滞在の報告を兼ねて発表をさせていただいた。国際子ども図書館では現在まで海外の児童書に関する調査として13の国や地域に関する調査をされているが、今年はケベックが対象地域に選ばれた。図書館からの依頼内容として主にケベック児童文学の蔵書474件に関する評価、300冊のウォントリストの作成、調査中に得られた児童書関連の情報をまとめた報告書の提出がある。ケベック滞在中は BAnQ の児童書部門司書の方にご協力をいただきながら、既に所蔵されている本に偏りがないか、ウォントリストに加えるべき本を図書館から示された条件のもと選択する作業を行った。調査の結果主要な研究書が欠けていたことがわかり、ウォントリストの上位には研究書やその他主要な賞を受賞しながら蔵書に加えられていない本を掲載した。リストと報告書に関しては2019年3月に国際子ども図書館のホームページ上に公開される予定である。(鈴木智子)

〇第二報告
佐藤信行(中央大学・日本カナダ学会会長)
「インターネット上の表現の全世界規制とカナダ:Google Inc. v. Equustek Solutions Inc.カナダ最高裁判所判決を例として」
 伝統的な法システムは、国家・法域とそれに対応する法の存在を前提としており、国境を越える法的紛争に対しても、各国家・法域対処を原則とする。しかし、国境を越えるネットワークたるインターネットでの権利・法益侵害は、まさしく「全世界」で生じるのであって、相当に異なる構造を有する。そこで考えられる解決の一つが、いずれかの国の裁判所が「全世界」を対象とする救済を提供することであるが、そこには、主権侵害や、文化的相違や価値観の相違に基づく法のギャップといった別の問題がある。従来この問題は、2014年5月13日のヨーロッパ司法裁判所の「忘れられる権利判決」を中心に議論されてきたが、これはEU法を根拠とするEU域内での対応が問題となってきたに過ぎなかった。
 そうした中、カナダ最高裁判所は、2017年6月28日に Google Inc. v. Equustek Solutions Inc. 事件に判決を下した(2017 SCC 34 (CanLII); [2017] 1 S.C.R. 824)。これは、BC 州裁判所が Google 社に対して発していた、あるコンピュータ関連製品海賊版に関する検索結果を削除するよう命じる暫定命令(interlocutory injunction)を支持し、インターネット上の権利救済のために、削除範囲を明示的に全世界を対象としたのであった。他方 Google 社は、この判決を受けて、今度はアメリカ合衆国連邦地方裁判所に同暫定命令の同国内での執行不能宣言を求め、勝訴した。ここに、加米で法分裂が生じることとなったのである。
 文化や価値観の相違という点からすると、特定国の裁判所が全世界の表現規制を行うという仕組みには、大きな危険が存在し、今後も慎重である必要がある。他方で、本件で問題となったのは、法域ごとの価値の差違が小さい海賊商品規制というものであり、確かに世界的規制の必要性も大きい。そこで、今後課題となるのは、同じインターネット上の表現であっても、侵害される法益に着目して、全世界的規制可能なものを類型化する作業であるといえよう。佐藤信行(日本カナダ学会関東地区・中央大学)
(本報告の詳細については、佐藤信行「裁判所によるインターネット情報の世界的帰省の可能性」佐藤信行他編著『憲法理論の再構築』(敬文堂、2019 年)参照)
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Tag:ケベックAJEQカナダ学会

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