AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ
AJEQ企画委員会・研究会担当 Comité scientifique
2019年12月7日(土)、立教大学にてAJEQの定例研究会が開催されました。
今回はカナダ・ケベックの政治・経済が専門の2名の会員に、先ごろ行われたカナダ連邦の総選挙におけるブロック・ケベコワの躍進や、世界の都市圏のコンパクト化の流れのなかでのモントリオールの試みについて興味深い発表をしていただきました。
詳細は下記のご本人たちからの報告をごらんください。(小倉和子・立教大学)
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日時:12月7日(土)16:00〜18:00
会場:立教大学池袋キャンパス11号館A302教室
(1)仲村愛会員 NAKAMURA Ai
「2019年カナダ連邦総選挙とケベック:ブロック・ケベコワの復活?」
(Élection générale fédérale de 2019 et le Québec: Retour en force du Bloc Québécois ?)
(2)瀬藤澄彦会員 SETO Sumihiko
「メトロポリゼーションと田園都市~世界の都市圏とモントリオール」
(Métropolisation - le cas de Montréal dans le Monde )
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仲村愛会員の報告
本報告では、2019年連邦総選挙におけるブロック・ケベコワ(BQ)の議席増大の意義について考察した。連邦総選挙の結果は概ね予想の範疇に留まるものであったが、唯一例外だったのがケベックの分離主義政党BQの結果であった。BQは、2010年代に入ってから低迷と混乱が続いており、2019年の総選挙では1議席を獲得することさえもはや難しいと一時は信じられていた。だが、そうした状況だったにも拘らず、BQは22議席増の32議席を獲得し、野党第二党にまで浮上したのである。
本報告においては、選挙結果概観、第一次トルドー政権における連邦政局、連邦各党支持率推移、地域別争点、BQ設立以来の同党の獲得議席数推移を確認した。連邦政局の中長期的な展開から見て、今次総選挙におけるBQの議席増大をもってBQの「復活」とまで断じるのは時期尚早であることを示しつつ、他方で、BQが引き続き連邦政治におけるケベック州有権者の受け皿となりうる可能性を示唆した。世論調査の示すところによれば、ケベック州において分離主義の再燃の兆候は見られないものの、ケベック州有権者の過半数がフランス語の状況とその未来を悲観しているという。報告中、こうした世論調査結果を提示しつつ、フランス語の状況に対する強い懸念やルゴー・ケベック未来連合(CAQ)州政権下で本年6月に成立した公務員の宗教標章着用を禁じる新法(Loi sur la laïcité de l’État)を巡る議論などが、連邦政治の文脈でもケベックの地域争点として前面に出ており、BQの支持率増につながったと考えられる旨指摘した。(仲村愛)
瀬藤澄彦会員の報告
都市の世紀とも言われる21世紀。メトロポールと呼ばれる拠点大都市とそれ以外の都市との格差が拡大するだけでなく、都心部が富裕化現象する。これに伴い旧市街や大都市の中心部の不動産価格が急上昇し始め、中間階層以下の人々は郊外に脱出するようになった。モントリオール都市圏においても都心部や旧市街地の富裕化(ジェントリフィケーション)がこのところ急速に進展、都市圏の周辺部への延伸、スプロール化、ペリアーバニゼーションが進んでいる。バンクーバーやトロントに比べコンパクト化に遅れて着手したモントリオールでも依然として郊外への人口流出が州政府や都市圏当局の方針にも拘わらず続いている。2001年に都市共同体(Communauté Urbaine de Montréal)から大都市地域圏(Région Métropolitaine de Montréal)という名称を変更したことにも表れている。
とりわけ政令都市とされる拠点大都市ほどこの傾向が顕著である。このような地域経済の不均衡拡大は従来、統合ヨーロッパや北米自由貿易論の推進の理論的なベースをなしてきた新)古典派経済学に基づいて実行されてきた地域開発政策の描いてきた経済空間が収斂していくという考えを裏切るものであった。これまでのアプローチを越えるものとしてポール・クルーグマンらは地理経済学を提唱するようになった。ここでは経済空間を遠心力と求心力、空間の序列関係、など新たな変数を導入することによって都市の経済空間を観察しようとするものである。日本でもジェトロ・アジア経済研究所長の藤田教授などが論文を発表して世界的にも注目されている。
ジェントリフィケーションションとともに人口の密集、交通混雑、大気汚染、公共機能アクセスの困難さ……などまさしく「市場の失敗」と称される問題点が先進国のメトロポール大都市圏において指摘される。OECDが数年前に世界7都市を検証して、この郊外スプロール化の問題解決に公共政策の切り札としてトラムウェイ(路面電車)の導入を取り上げて表面的にはOECDコンセンサスになっている。しかし北米と欧州ではどうも大分、トーンが異なる。コンパクト・シティ論は世界的には必ずしも全面的なコンセンサスを得た考え方にはなっていない。賛成論者と反対論者が存在する。パリ、ロンドンなどではむしろ都市と農村というより都市と田園との共存という意識の方が高いように見受けられる。欧州と北米の間には、歴史、市民意識、公共政策などにおいて違いがある。コンパクト・シティの功罪論を再検討する必要があるのではないか。
参加者のご質問とご意見は大変参考になりました。(瀬藤澄彦)
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