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AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ(2020年7月)
CATEGORY報告
AJEQ研究会報告 Rapport de la réunion d’études de l’AJEQ(2020年7月)
AJEQ企画委員会・研究会担当 Comité scientifique
2020年7月18日(土)15:00-18:00、新型コロナ禍のなか、オンラインにてAJEQの定例研究会が開催されました。初めてのオンラインという形式でしたが、多くのAJEQ会員、非会員の参加を得られ、充実した議論とコメントが聞かれました。今回は以下の3つの報告がありました。
(1)村石麻子会員 MURAISHI Asako
「レジャン・デュシャルム──言葉の曲芸師とその時代」
(Réjean Ducharme : jongleur de la langue et son temps)
(2)木下晴美会員 KINOSHITA Harumi
「美術館を通してどのようにケベック現代美術というラベルは分析されるのか?」
(Comment analyser le label de l’art québécois contemporain à travers le musée ?)
(3)吉田悠佑会員 YOSHIDA Yusuke
「モンレアルにおける店名と店舗の掲示物の分析と比較」
(Les magasins de Montréal : leur nom, leurs affichages. En quelle langue ?)
詳細は下記のご本人たちからの報告をごらんください。(矢頭典枝・神田外語大学)
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村石麻子会員の報告
本発表は、1960-70年代ケベックを代表する作家レジャン・デュシャルム(Réjean Ducharme, 1941-2017)の小説『力づくの冬(L’Hiver de force)』(1973)を読み解き、その言葉遊びの真意を考察するものである。造語や駄洒落、パロディ、引用などの様々な文学的実験は、現実から乖離した「テクストの悦楽」にすぎないのか。作家は言葉の綾を愉しみつつも、何を読者に伝えたかったのか。
まず、連邦主義と分離主義の平行線の対立が続く行き詰まるケベック政治、とりわけ過激化する独立運動を、軽妙なユーモアで諌めていることを示した。次に、カトリック教会の伝統が崩壊し、欲望の資本主義へと価値観が急激に変化するなかで、大量消費社会と自由競争の原理を痛烈な皮肉で批判し、芸術や愛といった神聖な領域まで侵食するマテリアリズムに警笛を鳴らしていることを示した。最後に、暴走する資本主義の代償として失われた共同体へのノスタルジー、「連帯」の幻想と挫折、大衆社会の拒否と肥大した自我との葛藤、型通りの人生と凡庸な日常への諦観の念も、笑いを交えて描いていることを示した。こうしたことからデュシャルムの言葉遊びは、社会の閉塞感を打破せんとの強い願いと、具体的な方向性が見定まらない焦燥感との間を行き来しつつ、時代をはすかいに静観し自己と対峙するための最良の手立てだったものと思われる。
会場からは、同時代の作家との交流、伝記的背景、フランスの作家クノーとの共通点、デュシャルム作品の真価と現代性についてご質問を頂き、今後の考察を深めるヒントとなった。
木下晴美会員の報告
本報告では、ケベック現代美術というラベルの広まりを地理学の観点から分析した。美術館のコレクションや展覧会を流布させることは、ケベック現代美術を広めるための政策や戦略になりうるという仮説から出発し、どの地域にケベック現代美術が広まっているのかを考察した。なお、現代美術専門のモントリオール現代美術館を研究対象とし、研究期間を2009年から2018年とした。
まず、ケベック現代美術を広めるために重要なコレクションの形成について、作品獲得の年ごとの推移を示した。並行して、モントリオール現代美術館の作品獲得政策とアーティストの評価について、ソベイ芸術賞の受賞者およびファイナリストとモントリオール現代美術館の作品購入を比較した。次に、2009年から2018における、モントリオール現代美術館によるケベックのアーティストの作品貸し出しを分析した。最後に、2009年から2018年の間に、モントリオール現代美術館が組織したケベックのアーティストに関する展覧会の流布を考察した。
作品貸し出しと巡回展を地理学の観点から分析した結果、ケベック現代美術というラベルの広まりは、カナダ国内とカナダ国外のいくつかの地域に限られていることが分かった。また、作品貸し出しは作品受容の問題を浮き彫りにし、巡回展はモントリオール現代美術館のネットワークをカナダ国内で拡大し強化しているということが明らかになった。得られた結果から、ケベック現代美術というラベルの広まりは、現時点で限定的であることを指摘した。
吉田悠佑会員の報告
本報告では2019年度小畑ケベック研究奨励賞に伴う現地調査で得たデータを用いて、2019年4月20日のAJEQ研究会にて報告した内容との比較を試みた。前回は店名調査を行ったが、今回は実際に歩いた際に読むことができる掲示物上で使用されている言語を量的に分析した。また、Papineau駅に隣接する Cartier 通りから Place-des-Arts 駅の De Bleury 通りまでを調査区域とし、サント・カトリーヌ通りにある店舗を対象とした。その結果、フランス語と英語の言語使用率が変化する場所がサン・ローラン通り付近となった。つまり、掲示物の調査上からは「言語境界線」は変わっていないと推測ができる。 昨今、店名の使用言語規制が強まっているが、その規制のみで十分なのか、またその効果はどの程度あるのかという疑問を呈した。また、同滞在時にはモンレアル島の各地域に移動し、店舗の掲示物とカフェにおける注文時の言語選択観察を行った。本報告ではとりわけ Westmount と Parc に焦点をあてて報告をした。Parc のカフェではフランス語の使用が少なく、またフランス語の挨拶によって反応が見受けられなかった場合には英語へのコード・スイッチングが頻繁に起こることが分かった。また英語のみの掲示物も英語母語話者が多いWestmountよりも多く見受けられることがわかった。この結果より、Parcにおけるフランス語の使用を促すことが必要ではないかと考察した。
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